『深夜快速の旅?マレーシア篇』 Chapter10
ブドラヤバスステーションには多くの人が集まっていた。
サリーをきた女性たちやリュックサックを背負った親子連れで
待合ロビーはごった返していた。
このバス停からマレーシア全土へ幾筋ものバス路線がひかれ、
その数は膨大で、チケットカウンターが30以上並んでいた。
トランシーバーを持った案内係に促されてチケットを買った。
例のハニー味のお茶をバックパックにぶら下げて、
マラッカへと向かうバスに乗り込んだ。
鉄道網が発達していないマレーシアでは、長距離移動はバスが主流で、
値段が決して高くない割には、
案外快適に過ごすことのできる設備の整った大型バスが庶民を支えている。
車内は静かでマナーもよく、みな思い思いの角度にいすを倒して、
些細なおしゃべりなどをしている。
毎度思うが、
車窓こそ、旅を感じるものだと思う。
バスに自分の体を固定して、流れる景色に歩調を合わせて目を配せる。
首都の中で群立していたビルはすぐに消えていき、渋滞とは縁遠いハイウェイを南下していく。
都市の中を縫うように走り、遠慮して壁に包まれる日本のそれとは異なって、
左右が開けた半島のハイウェイは、熱帯を模したような木々にそっと包まれ
気持ちが良さそうだった。
マラッカまでは3時間で到達する。
2時間ほどが過ぎると、席を立ってドライバーに声をかけ、
停留所ではない場所で降りていく人が目立ちだした。
自分が降りる場所がどこなのか分からなかったが
到着予想時刻とほぼ同じ時間になると、
明らかにそれと分かる大きな円錐状の長距離バスステーションが見えてきた。
強すぎる冷房に腹を下した私は、まずトイレへ急いだ。
トイレは有料らしく、ささやかな硬貨を集金係に渡して入場した。
用をたした後は、紙で拭くのではなく水と手で漱ぐ。
カルチャーショックを受けなかったといえば嘘になる。
すっきりすると、気持ちは前に向かった。
ここでマラッカ市内の循環バスへ乗り換える。
様々な運行会社のバスが出入りをしていて、
17番まである停車場を2週ほど探し回っても、
いまいちどれが正解なのかわからなかった。
ここで間違える訳にはいかず、
値は張るが確実なタクシーに乗ることにした。
————————————————
次は加茂くんです。